麻疹(はしか)を知る
予防接種で守る大切な命
皆さんは「麻疹(はしか)」と聞いて、どんなイメージをお持ちでしょうか?子どもの頃にかかる病気、昔の病気…と思われる方も多いかもしれません。しかし、麻疹は今でも世界中で流行している深刻な感染症です。実は「空気感染」する数少ない疾患の一つで、その感染力は驚くほど強いのです。
麻疹ってどんな病気?
麻疹は、発熱や発疹を主な症状とするウイルス感染症です。一見すると「ただの熱と発疹」と思われがちですが、時に命に関わる合併症を引き起こす恐ろしい病気でもあります。
麻疹ウイルスは空気中を漂い、同じ空間にいるだけで感染する可能性があります。感染力が非常に強く、免疫を持たない人が患者と同じ空間にいた場合、実に90%以上の確率で感染するとされています。これは風邪やインフルエンザをはるかに上回る感染力です。
治療法は?
残念ながら、麻疹に「特効薬」はありません。発症してしまった場合、できることは症状を和らげる「対症療法」が中心となります。
- 発熱に対する解熱剤
- 十分な水分補給と栄養
- 安静にして体力を回復させること
ただし、麻疹が怖いのは合併症です。中耳炎や肺炎などの細菌感染を併発した場合には、抗生物質による治療が必要になります。特に免疫力の弱い小さなお子さんや高齢者では、重篤な合併症のリスクが高まります。
予防こそが最善の策
麻疹は空気感染するため、手洗いやマスクだけでは十分に予防できません。私たちが頼れる最も効果的な予防法は「ワクチン接種」です。
- 発熱に対する解熱剤
- 十分な水分補給と栄養
- 安静にして体力を回復させること
ワクチン接種のタイミング
日本の現行制度では、以下の 2 回接種が定期接種として実施されています:
- 第1期:1 歳の誕生日を迎えたらすぐに(遅くとも生後 12~15 ヶ月までに)
- 第2期:小学校入学前の 1 年間(年長児)
この 2 回接種によって、97~99%以上という非常に高い確率で免疫を獲得できることが報告されています。
特別なケース
- 海外渡航予定のお子さん:麻疹が流行している国へ行く場合
- 保育所などで患者が発生した場合
これらのケースでは、生後 6 ヶ月以降であれば、緊急避難的に 1 歳前でもワクチン接種を検討できます(任意接種・有料)。ただし、この場合でも 1 歳以降に改めて定期接種 2 回を受ける必要があります。
ワクチン接種の注意点
- 輸血や免疫グロブリン製剤投与後は、通常 3 ヶ月間は接種を控えます
- 川崎病などの治療で大量療法を受けた場合は、6 ヶ月以上の間隔が必要
- 女性は接種後 2 ヶ月間は妊娠を避けるようにしましょう
- 接種後 30 分は、まれに起こる可能性のある反応に注意が必要です
ワクチン接種後の反応
ワクチン接種後に軽い反応が出ることがあります:
- 発熱:約 20~30%
- 発疹:約 10%
これらの反応はほとんどが軽症で、自然に消失します。熱性けいれんの既往がある場合は、発熱時の対応について事前に相談しておくとよいでしょう。
安全性は?
現在の国産 MR ワクチンには、かつてアレルギーの原因となったゼラチンは含まれていません。脳炎・脳症の報告は約 100 万接種に 1 例程度と極めてまれで、麻疹自体による脳炎の発症率よりもはるかに低く、安全性の高いワクチンといえます。
もし麻疹にかかってしまったら
麻疹は「全数報告対象疾患」です。医師は診断後すぐに保健所へ届け出ることになっています。また、学校保健安全法では「第二種の学校感染症」に指定されており、解熱後 3 日を経過するまでは登校・登園できません。
まとめ:予防接種で守る大切な命
麻疹は過去の病気ではありません。今でも世界中で多くの命を奪っている深刻な感染症です。幸い、私たちには効果的な予防法があります。定期的なワクチン接種で、あなたとご家族、そして社会全体を麻疹から守りましょう。
- 当クリニックでは麻疹を含む予防接種の相談・実施を行っています。ご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。