ジフテリア
知っておきたい歴史ある感染症

いま改めて知りたいジフテリアの基礎知識

皆さんは「ジフテリア」という病気をご存知ですか?
現代日本ではほとんど見かけなくなった感染症ですが、かつては多くの命を奪った恐ろしい病気でした。予防接種の普及により、日本では 1999 年以降の発症例はありませんが、世界の一部地域では今でも流行しています。今回は、この歴史ある感染症について分かりやすくご紹介します。

ジフテリアとは?

ジフテリアは、「コリネバクテリウム・ジフテリエ」という細菌が引き起こす感染症です。この菌が特別な毒素を作ることで、のどや鼻の粘膜に炎症を起こし、特徴的な「偽膜(ぎまく)」と呼ばれる灰白色の膜を形成します。

感染経路は?

  • 飛沫感染:感染者の咳やくしゃみによる飛沫を吸い込む
  • 接触感染:菌が付着したドアノブやタオルなどから感染

3つの特徴的な症状

  1. のどの症状:のどの痛み、灰白色の偽膜形成、呼吸困難
  2. 全身症状:発熱、倦怠感、首のリンパ節の腫れ
  3. 合併症:心筋炎や神経障害(手足の筋力低下、呼吸筋まひなど)

なぜ怖い?ジフテリアの危険性

ジフテリアが怖いのは、その高い致死率にあります。適切な治療を受けていても、約 10%の方が亡くなるとされています。特に 5 歳以下のお子さまや 40 歳以上の方では、致死率が 20%にまで上昇することもあります。

ジフテリア菌の作る毒素は、血流に乗って全身に運ばれ、心臓や神経などの重要な臓器にダメージを与えます。特に心筋炎を引き起こすと、心不全や突然死の原因となることも。また神経障害により、飲み込む力が弱くなったり、呼吸困難に陥ることもあります。

どう診断する?

ジフテリアの診断は、主に以下の方法で行われます:

  1. 臨床症状の確認:特徴的な偽膜の有無
  2. 細菌検査:のどや鼻から採取した検体を培養
  3. 遺伝子検査:PCR 法による毒素遺伝子の検出

治療法は?

ジフテリアの治療には 2 つの柱があります:

  1. 抗毒素療法:ジフテリア毒素の働きを抑える抗毒素を投与
  2. 抗菌薬治療:ジフテリア菌を体内から除去するために抗生物質を使用

治療には入院が必要で、感染拡大を防ぐため隔離されることもあります。

予防が最大の対策!

ジフテリアは一度かかると命の危険もある病気ですが、予防接種で防ぐことができます。日本では、乳幼児期から定期的な予防接種が行われています:

  1. 第 1 期:生後 3〜12 ヶ月に 3 回の初回接種、その後 12〜18 ヶ月で追加接種(四種混合ワクチン)
  2. 第 2 期:11〜12 歳(小学校 5 年〜中学 1 年)に 1 回接種(二種混合ワクチン)

ワクチンの効果は時間とともに弱まるため、理想的には 10 年ごとの追加接種が望ましいとされています。特にジフテリアが流行している地域への渡航を予定されている方は、追加接種をご検討ください。

日本と世界のジフテリア

かつて日本では、1945 年に 8 万人以上のジフテリア患者が報告されていました。しかし、1948 年に予防接種法が制定され、その後様々な混合ワクチンが導入されたことで患者数は激減。1999 年以降は国内での発症例はありません。

一方で世界に目を向けると、政治的混乱や経済危機によってワクチン接種率が低下している地域では、今でもジフテリアの集団発生が報告されています。近年では、ナイジェリア、インド、インドネシア、ハイチ、ベネズエラなどで流行が確認されています。

まとめ

ジフテリアは、予防接種によって防ぐことができる感染症です。日本国内での発症例は長年報告されていませんが、引き続き予防接種を受けることが大切です。特に小学校高学年での追加接種を忘れないようにしましょう。海外渡航の予定がある方は、ワクチン接種状況を確認することをお勧めします。

  • 当クリニックでは、ジフテリアを含む予防接種について、ご相談を承っております。ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

ワンポイントアドバイス

「毒素を作らないジフテリア菌」は喉などに常在しても病気を引き起こしません。ジフテリアの原因となるのは「毒素を作るジフテリア菌」だけです。予防接種は毒素による害から身を守るために重要なのです!