ムンプス(おたふく風邪)
知っておきたい基礎知識
耳の下がパンパンに腫れて「おたふくさん」のような顔つきになることから、親しみを込めて「おたふく風邪」と呼ばれるこの病気。実は正式名称は「流行性耳下腺炎(りゅうこうせいじかせんえん)」といい、ムンプスウイルスが引き起こす感染症です。子どもだけでなく大人も罹る可能性があり、適切な知識を持つことが大切です。
おたふく風邪の正体とは?
おたふく風邪は、咳やくしゃみによる「飛沫感染」や、ウイルスが付着した手や物を介した「接触感染」で広がります。特徴的なのは、唾液を作る耳下腺の腫れ。これは、ムンプスウイルスが唾液腺に感染して炎症を起こすためです。
発症までには約 2〜3 週間の潜伏期間があり、その間も感染力があるのが厄介なところ。実は感染しても約 30%の方は症状が出ない「不顕性感染」となりますが、症状がなくても周囲にウイルスをばらまく可能性があります。
子どもから大人までみられる症状の特徴
よくある症状
- 発熱(軽度〜中等度)
- 耳の下の腫れ(片側または両側)
- 腫れた部分の痛み・圧痛
- 酸っぱいものを食べると痛みが増す
- 嚥下時の不快感・痛み
「昨日から子どもの頬がパンパンに腫れているけど…」。このような状態で来院される方も少なくありません。最初は片側から腫れはじめ、1〜2 日遅れてもう片方も腫れることが多いですが、片側だけのこともあります。通常、症状は 1〜2 週間ほどで自然に軽快していきます。
侮れない合併症:特に注意したい「難聴」と「不妊」
おたふく風邪は「ただの風邪」と思われがちですが、実はいくつかの重大な合併症を引き起こすことがあります。
ムンプス難聴(永続的な難聴)
おたふく風邪の合併症の中で、最も警戒すべきものの一つが「ムンプス難聴」です。発症率は 2 万人に 1 人程度と言われていますが、一度発症すると回復せず、永続的な聴覚障害となります。片耳だけのことが多いですが、両耳の場合、特に言語形成期の子どもでは言葉の発達に大きな影響を与えることも。
睾丸炎・卵巣炎(不妊リスク)
思春期以降の男性がおたふく風邪にかかると、約 20〜30%に睾丸炎を合併することがあります。高熱と共に睾丸の腫れや強い痛みを伴い、両側に起こると不妊のリスクが高まります。女性でも卵巣炎を合併することがあり(約 7%)、同様に不妊の可能性があります。
その他の合併症
- 髄膜炎(頭痛、嘔吐、項部硬直など)
- 膵炎(上腹部痛、嘔吐など)
予防と対処法:ワクチンが最も効果的
おたふく風邪に特効薬はなく、一度かかると対症療法(症状を和らげる治療)しかありません。そのため、予防が最も重要です。
ワクチン接種のすすめ
日本では残念ながら任意接種ですが、ムンプスワクチンはおたふく風邪の予防に非常に効果的です。特に、合併症のリスクを考えると、子どもも大人も接種をお勧めします。
- 推奨接種回数:2 回
- 接種適齢期:1 歳と 5〜6 歳(小学校入学前の 1 年間)
- 大人でも接種可能:過去に罹患歴がなければ接種を検討
「もう罹ったことがあるから大丈夫」と思っている方も、実は別のウイルスによる唾液腺炎だった可能性もあります。不安な方は抗体検査で確認することも可能です。
万が一かかってしまったら
- 発症から 5 日間は学校や保育園を休む
- 十分な水分補給と休息
- 解熱鎮痛薬で熱や痛みを和らげる
- 酸っぱい食べ物は避ける(唾液分泌が促され痛みが増す)
- 合併症の症状に注意する
まとめ:知って防ごうおたふく風邪
おたふく風邪は子どもの頃によくかかる「ありふれた病気」ですが、その合併症は決して軽視できるものではありません。特に永続的な障害となる難聴や不妊のリスクを考えると、ワクチン接種による予防が最も賢明な選択といえるでしょう。
「もしかして?」と思ったら早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることをお勧めします。また、周囲への感染を防ぐためにも、症状がある場合は外出を控え、手洗い・うがいを徹底しましょう。
- 当クリニックでは、おたふく風邪の予防接種や抗体検査も行っておりますので、お気軽にご相談ください。