筋肉の「サヨナラ」を防ぐ!
高齢者の筋力低下「サルコペニア」を知ろう
「最近、階段がきつくなった」
「ちょっと歩いただけで疲れる」
そんな症状、単なる年のせいだと諦めていませんか?
実は、これらの症状の背景には「サルコペニア」という状態が隠れているかも
しれません。今回は、あまり知られていないけれど、健康長寿のカギを握る「
サルコペニア」について、分かりやすくお伝えします。
サルコペニアって何? —「筋肉に忍び寄る静かな危
機」—
サルコペニアとは、ギリシャ語で「筋肉(サルコ)」と「減少(ペニア)」を意味する言葉を組み合わせた医学用語。簡単に言えば、「加齢による筋肉量の減少と筋力低下」のことです。
でも、単なる「年をとったから筋肉が衰えた」という現象ではありません。サルコペニアになると、日常生活に支障をきたし、転倒リスクが高まり、最悪の場合は寝たきりにつながる可能性もある、れっきとした医学的な状態なのです。
「いつの間にか筋肉が消えていく」サルコペニアの怖い特徴
意外と知らない!サルコペニアの進行は「急」
サルコペニアの怖いところは、進行の速さです。一般的に思われているよりも、ずっと早く進むことがあります。
例えば、入院して数日〜1週間ほど活動が減っただけで、筋力は驚くほど低下することがあります。「先週まで普通に歩けていたのに、今週になって急に立ち上がれなくなった」という状況は、決して珍しくありません。
サルコペニアになる「きっかけ」がある
当クリニックの経験では、サルコペニアになる患者さんには、ほとんどの場合、何らかの「きっかけ」があります。
- 入院による活動範囲の減少
- 体調を崩して数日間寝込んだ
- 持病の悪化
- 大切な人との死別によるストレスや食欲低下
これらをきっかけに、筋肉の減少が一気に加速し、サルコペニアの状態へと進行していきます。
サルコペニアの種類 —原因によって対策も変わる—
サルコペニアには大きく分けて2種類あります。
一次性サルコペニア
- 加齢だけが原因で起こるもの
二次性サルコペニア
- 活動に関連するもの :ベッドで過ごす時間が長い、運動不足など
- 疾患に関連するもの :心臓・肺・肝臓・腎臓の病気、がんなど
- 栄養に関連するもの :十分な栄養、特にタンパク質が摂れていない
実際には、多くの患者さんが「加齢」と「その他の要因」が複合的に関わった状態です。特に75歳以上の方では、認知症や骨粗しょう症と一緒に進行することが多いのが特徴です。
サルコペニアの診断方法 —「3つのチェックポイント」—
サルコペニアの診断には、次の3つの要素を確認します。
1.筋肉量の測定
専用の機器を使って、手足の筋肉量を測定します。大きな医療機関ではDXA(デクサ)という骨密度も測れる装置を使いますが、当クリニックではより簡便なBIA法を用いて測定可能です。
2.歩行速度の測定
4〜6メートルの距離を普段通りの速さで歩いてもらい、その速度を測定します。ここで大切なのは「いつも通りの自然な歩き方」で測ること。無理に速く歩く必要はありません。
3.筋力の測定
握力計を使って手の力を測定します。これは全身の筋力を反映する指標として用いられています。
サルコペニアの治療法 —筋肉を「守り」「育てる」—
栄養療法:筋肉の「材料」を補給する
筋肉の主成分はタンパク質。年齢を重ねると食事量が減り、自然とタンパク質摂取量も減ってしまいます。サルコペニア予防・改善には、質の良いタンパク質をしっかり摂ることが大切です。
おすすめのタンパク質源
- 赤身の肉(牛肉、豚肉など)
- 魚(特に白身魚)
- 鶏肉(特に胸肉)
- 卵
- 乳製品(ヨーグルト、チーズなど)
- 大豆製品(豆腐、納豆など)
一日の目標は、体重1kgあたり1〜 1.5g のタンパク質。例えば、体重50kgの方なら 50 〜 75g のタンパク質が理想的です。これは卵なら8〜12個分、木綿豆腐なら 2.5 〜 3.5 丁分に相当します(もちろん卵だけ食べるわけではありませんが)。
運動療法:筋肉に「刺激」を与える
筋肉は「使わなければ衰える」もの。特に効果的なのは、筋肉に適度な負荷を
かける「レジスタンス運動」です。
自宅でできる簡単レジスタンス運動
- 椅子からの立ち上がり (10回 ×3セット)
- ふくらはぎの上下運動 (つま先立ち)(20回 ×2セット)
- 壁を使った腕立て伏せ (10回 ×2セット)
継続が何より大切です。毎日のテレビのCM時間だけ椅子から立ち上がる運動をするだけでも、効果が期待できます!
薬物療法:研究が進んでいます
現在、サルコペニアに特化した薬はまだ開発中ですが、以下のような栄養素が効果的とされています。
- BCAAサプリメント:分岐鎖アミノ酸で筋肉の合成を促進
- ビタミンD :筋力向上に効果があり、特に運動と組み合わせると効果的
こうした栄養素の活用については、ぜひ一度ご相談ください。
成功事例:1ヶ月で歩ける喜びを取り戻した80代女性の場合
当クリニックに通われている85歳の佐藤さん(仮名)は、風邪をこじらせて2週間ほど寝込んだ後、突然立ち上がれなくなりました。
診察の結果、サルコペニアと診断。娘さんの協力のもと、次のような対策を始めました。
- 毎日の食事でタンパク質をしっかり摂る(特に朝食に卵や納豆を追加)
- 1日3回、椅子からの立ち上がり運動(最初は支えが必要でした)
- ビタミンDサプリメントの活用
驚いたことに、たった1ヶ月で佐藤さんは自力で立ち上がれるようになり、室内なら歩行器なしで歩けるまでに回復されました。
「もう歩けないかと思ったけど、また自分の足で歩けるようになって本当に嬉しい」と笑顔で話してくださいました。
サルコペニアを知ることが最大の予防法
かつての「認知症」や「骨粗しょう症」のように、「サルコペニア」もまだあまり知られていない言葉です。しかし、適切な予防と早期対応をすれば、重症化を十分に防げる状態です。
サルコペニアを「知る」ことが、実は最大の予防法なのです。
- 「最近足が弱くなったかも」「親の歩く姿が不安定になってきた」と感じたら、ぜひ一度ご相談ください。
私たちと一緒に、元気な足腰で健康長寿を目指しましょう!