糖尿病ってどんな病気?
~知っておきたい基礎から予防まで~
甘いお話じゃない、糖尿病の真実
みなさん、「糖尿病」と聞くと何を思い浮かべますか?
「甘いものを食べ過ぎるとなる病気?」
「重症化すると失明したり足を切断したりする怖い病気?」
「お年寄りがかかる病気?」
実は、これらは全て部分的には正しいのですが、完全な理解とは言えません。今日は糖尿病の本当の姿について、わかりやすくお話しします。
血糖値を調節する「インスリン」のはなし
私たちの体は食事からエネルギーを得ています。特に炭水化物(ごはん、パン、麺類など)は消化されると「ブドウ糖」になり、血液を通じて全身の細胞にエネルギーとして届けられます。
この血液中のブドウ糖の量、つまり「血糖値」を適切に調節しているのが「インスリン」というホルモンです。インスリンは膵臓から分泌され、血糖値が上がると「ブドウ糖を細胞の中に取り込んでください」という司令官の役割を果たします。
糖尿病は、このインスリンの働きに問題が生じて、血糖値が慢性的に高くなってしまう状態なのです。
糖尿病の種類 〜みんな同じじゃない〜
糖尿病には主に次の種類があります:
1 型糖尿病
- 体の免疫システムが間違ってインスリンを作る膵臓の細胞を攻撃してしまう病気
- 生活習慣に関係なく発症する(だれのせいでもありません!)
- 子供や若い人に多いですが、大人でもなることがあります
- インスリン注射が必要な治療の中心になります
2 型糖尿病
- インスリンの分泌量が少なくなったり、効きが悪くなったりする
- 日本人の糖尿病の約 95%がこのタイプ
- 遺伝的な要素と生活習慣(食事、運動不足、ストレスなど)が関係します
- 40 代以降に多いですが、最近は若い人にも増えています
妊娠糖尿病
- 妊娠中に血糖値が高くなる状態
- 出産後に改善することが多いですが、将来的に 2 型糖尿病になるリスクがあります
症状は「静かな始まり」
糖尿病の怖いところは、初期には自覚症状がほとんどないことです。「無症状の病気」とも言われます。
血糖値が非常に高くなると、次のような症状が現れることもあります:
- のどが異常に渇く
- たくさん水を飲む
- トイレが近くなる
- 疲れやすい
- 体重が減少する
しかし、多くの方はこうした明らかな症状がないまま、健康診断で偶然見つかることが多いのです。
放っておくとどうなる? 〜合併症のリスク〜
慢性的な高血糖状態は、全身の血管を少しずつ傷つけていきます。時間をかけて静かに進行するため、気づいたときには手遅れということも…。
主な合併症:
- 糖尿病網膜症:目の網膜の血管が傷つき、最悪の場合、失明することも
- 糖尿病腎症:腎臓の機能が低下し、人工透析が必要になることも
- 糖尿病神経障害:手足のしびれや痛み、感覚鈍麻が生じ、気づかないうちに怪我や足の壊疽につながることも
- 大血管障害:心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まります
診断は簡単 〜こんな検査で分かります〜
糖尿病の診断に必要な主な検査は次の通りです:
血糖値検査
- 空腹時血糖値:朝食を抜いた状態で測定 (126mg/dL 以上が糖尿病型)
- 随時血糖値:食事の時間に関係なく測定(200mg/dL 以上が糖尿病型)
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)
- 過去1〜2ヶ月の血糖値の平均を反映
- 6.5%以上が糖尿病の診断基準
- 合併症予防のためには 7.0%未満を目指します
75g ブドウ糖負荷試験(OGTT)
- 砂糖水を飲んで、血糖値の変化を時間ごとに測定
- 糖尿病の診断を確定するのに役立ちます
糖尿病の治療 〜お一人おひとりに合わせたアプローチ〜
糖尿病の治療は「血糖値を適切な範囲にコントロールする」ことが目標です。患者さんの状態に合わせて、次のような治療法を組み合わせます:
1.生活習慣の改善
- バランスの良い食事(極端な制限ではなく、量と質の調整)
- 定期的な運動(ウォーキングなどの有酸素運動が効果的)
- 十分な睡眠とストレス管理
- 禁煙
2.経口血糖降下薬
様々な作用機序の薬があり、患者さんの状態に合わせて選択します:
- インスリンの分泌を促進する薬
- インスリンの効きを良くする薬
- 腸からの糖吸収を遅らせる薬
- 腎臓からの糖排泄を促進する薬
3.インスリン治療
- 1 型糖尿病の方は必須
- 2 型糖尿病でも、経口薬で血糖コントロールが不十分な場合に使用
- 最近は注射ペンが進化し、痛みもほとんどなく簡単に使えるようになっています
4.GLP-1 受容体作動薬
- 食欲を抑え、インスリン分泌を促進する注射薬
- 体重減少効果も期待できます
糖尿病との上手な付き合い方
糖尿病と診断されても、適切な治療と生活習慣の改善で、ほとんどの方は健康的な生活を送ることができます。
日常生活でのポイント
- 食事:極端な制限より、バランスと規則正しさが大切
- 運動:毎日 30 分の有酸素運動が理想的
- 自己管理:自宅での血糖測定で状態を知ることも大切
- 定期検診:合併症の早期発見のために欠かせません
よくある誤解を解消
「糖尿病=甘いものを食べられない」は誤解です。主治医と相談しながら、適量であれば楽しむことができます。極端な食事制限はかえってストレスになり、長続きしません。
「糖尿病=人生の終わり」ではありません
糖尿病に対する社会の偏見や誤解により、患者さんが肩身の狭い思いをすることもあります。しかし、糖尿病は決して恥ずかしい病気ではありません。
適切な治療を受けながら血糖値をコントロールしていれば、糖尿病のない方とほぼ変わらない生活を送ることができます。日本糖尿病学会と日本糖尿病協会も、糖尿病のある方が安心して生活できる社会を目指してアドボカシー活動を行っています。
予防は可能 〜明日から始められること〜
2 型糖尿病の多くは生活習慣の改善で予防・遅延できます:
- 食事: 野菜から食べ始める、腹八分目を心がける
- 運動: エレベーターの代わりに階段、一駅分歩くなど日常に取り入れる
- 体重管理: 適正体重を維持する
- 睡眠: 質の良い睡眠を確保する
- ストレス管理:自分なりのリラックス法を見つける
さいごに 〜早期発見が大切〜
糖尿病は「静かに進行する病気」です。定期的な健康診断を受けることで早期発見・早期治療につながります。
私たちのクリニックでは、糖尿病の予防から治療まで一人ひとりに合わせたサポートを行っています。
少しでも気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
「糖尿病と診断されたけど、どうしたらいいの?」
「家族に糖尿病患者がいるけど、自分は大丈夫?」
「健診で血糖値が高めと言われたけど…」
そんな疑問や不安に、当クリニックスタッフがていねいにお答えします。
- あなたの健康な毎日のために、私たちがサポートします。