子どもの気管支喘息
~お子さまの呼吸を守るために知っておきたいこと~
「ゼーゼー、ヒューヒュー」の正体とは?
「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音と共に、お子さまが苦しそうに呼吸をしている姿を見たことはありませんか?
これが気管支喘息の典型的な症状です。
でも、この症状が体の中でどのように起きているのか、ご存知でしょうか?
私たちの体は、酸素を取り込んで二酸化炭素を出す「呼吸」によって生きています。
その空気の通り道である気管支が、突然狭くなってしまうのが喘息発作です。
これは単なる「一時的な症状」ではなく、気道の慢性的な炎症が原因で起こる病気なのです。
喘息の気道はどうなっているの?
健康な気道は、まるで整備された高速道路のように、空気がスムーズに通れる状態です。しかし、喘息のあるお子さまの気道は、常に工事中の道路のように「荒れた状態」になっています。
この荒れた気道は、とても神経質な状態。ちょっとしたホコリや冷たい空気、運動など、普通なら問題ないような刺激でも「大事件」と勘違いして、急に道を狭くしてしまうのです。その結果、息を吐くときに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が出て、呼吸が苦しくなります。
なぜ我が子が喘息に?その原因を探る
「どうして子どもが喘息になったの?」と心配されるご家族も多いでしょう。喘息の原因は大きく分けて2つあります。
1.生まれ持った体質(遺伝的要因)
- ご家族に喘息やアレルギーの方がいる
- アトピー性皮膚炎や食物アレルギーがある
2.周りの環境(環境要因)
- ハウスダスト(ダニの死骸やフン)
- ペットの毛やフケ
- タバコの煙
- カビ
- 大気汚染
- ウイルス感染(風邪など)
まるで「火薬」と「火種」の関係。生まれ持った体質(火薬)があるところに、環境要因(火種)が加わることで、喘息発作(爆発)が起きるのです。
お医者さんはどうやって喘息を見分けるの?
「風邪でもゼーゼーするけど、それって喘息?」と疑問に思われる方も多いでしょう。実は子どもの喘息の診断は、医師にとっても難しい課題なのです。
一般的には、次のような基準で診断します:
- 息を吐くときの「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音(呼気性喘鳴)を伴う呼吸困難が3回以上繰り返される
- 家族のアレルギー歴や本人の既往歴を確認
- 血液検査でアレルギーの有無を調べる
- 年齢に応じた呼吸機能検査
お子さまが「ゼーゼー」したら、それがいつ起きたか、どのくらい続いたか、何をしていたときに起きたかなどをメモしておくと、診断の大きな助けになります。
喘息は治るの?—知っておきたい真実
「子どもの喘息はそのうち治る」という話を聞いたことがあるかもしれません。確かに、適切な治療と環境整備で症状がなくなることはあります。でも、ここで重要な真実をお伝えします。
その 1:発作がないからといって治ったわけではない
喘息発作がしばらく起きていなくても、気道の炎症は静かに続いていることがあります。これは「くすぶる火事」のようなもの。表面上は何も見えなくても、中では炎症が続いているのです。
その 2:繰り返す発作は気道に傷跡を残す
発作を繰り返すと、気道の形が変わってしまう「リモデリング」という現象が起こります。これは傷が治った後に残る傷跡のようなもの。一度変形した気道は元に戻りにくくなり、生涯にわたって呼吸機能に影響することがあります。
だからこそ、早期からの適切な治療と環境整備が重要なのです。
喘息治療の 2 つの柱—「発作を止める」と「発作を予防する」
喘息治療には大きく分けて2つの目的があります。
1.発作が起きたときの治療(急性期治療)
① 気管支拡張薬(β2 刺激薬)
緊急車両のサイレンのように「どけどけ~!」と気道を広げる薬です。
- 吸入タイプ:最も早く効き、副作用も少ない
- 内服タイプ:吸入が難しい小さなお子さまに
- 貼付タイプ:効果はゆっくり(4〜6 時間)だが、長続きする
② ステロイド薬
消防車のホースのように、炎症の「火」を直接消す薬です。短期間の使用なら、心配されがちな副作用(成長障害、免疫低下など)はほとんどありません。
2.発作を起こさないための治療(長期管理治療)
① ロイコトリエン拮抗薬(LTRA)
炎症を起こす「悪者」の一人、ロイコトリエンの働きを抑える内服薬です。
② 吸入ステロイド
気道の炎症を直接抑える「特殊消防隊」のような薬です。喘息の長期管理において最も重要な薬剤です。
- 注意点:吸入後はうがいを(カビ感染予防のため)
- 成長への影響:最初の1年で身長の伸びが約1cm 少なくなる可能性がありますが、その後は影響が少なく、成人身長はほとんど変わらないとされています。
我が家でできる喘息対策—お子さまの呼吸を守る環境づくり
薬による治療だけでなく、ご家庭での環境整備も喘息コントロールの重要な柱です。以下のポイントを意識してみましょう。
ホコリとの戦い
- 寝具は週1回以上洗濯(ダニの温床になりやすい)
- カーペットやぬいぐるみは最小限に
- 掃除機は高性能フィルター付きを選び、週2〜3回
- エアコンのフィルター清掃を忘れずに
ペットとの上手な付き合い方
喘息のお子さまにとって、ペットの毛やフケは強い刺激になることも。
でも、すでに家族の一員なら:
- ペットの活動範囲を制限(寝室には入れない)
- 定期的なシャンプー(週に2〜3回)
- 掃除機をこまめにかける
- 空気清浄機の活用
タバコは絶対NG
喘息の最大の敵は「タバコの煙」です。「外で吸っているから大丈夫」は大きな間違い。タバコの有害物質は服や髪に付着し、室内に持ち込まれます(サードハンドスモーク)。
禁煙は家族全員の健康のため
- 禁煙外来の活用(保険適用の場合も)
- 禁煙アプリの利用
- 「子どものために」という強い動機を持つ
喘息とともに成長する—将来を見据えた取り組み
小さいころに発症した喘息。その後の経過は、治療の取り組み方で大きく変わります。
良いニュース:
幼少期に発症した喘息の多くは、適切な治療と環境整備により、思春期までに症状が軽減または消失することがあります。
大切なポイント:
7〜10 歳頃の喘息コントロール状態が、将来の経過を左右すると言われています。この時期に喘息をしっかりコントロールできると、大人になってからの活動制限も少なくなる可能性が高まります。
想像してみてください。高校や大学で好きなスポーツに打ち込む姿、友人とのキャンプやバーベキューを楽しむ姿。それとも、喘息発作を恐れて活動を制限する姿。
その違いを作るのは、今のコントロール状態なのです。
まとめ―お子さまの未来のために
子どもの喘息は「そのうち治る」と放置するものではなく、積極的に管理していくべき病気です。適切な治療と環境整備により、多くのお子さまが症状を軽減させ、制限の少ない生活を送ることができます。
大切なのは、医療者とご家族が「チーム」となって取り組むこと。定期的な通院、処方薬の正しい使用、家庭環境の整備、そして何より大切なのは、お子さま自身が少しずつ自分の病気を理解し、管理できるようサポートすることです。
喘息があっても、夢や希望を諦める必要はありません。むしろ、お子さまの可能性を最大限に引き出すために、今できることを一緒に考えていきましょう。
- 当クリニックでは、お子さまの喘息について、どんな小さな疑問でもお気軽にご相談ください。