結核と向き合う
お子さまの健康を守る ために知っておきたいこと
「古くて新しい病気」結核について
皆さんは「結核」と聞くと、どんなイメージをお持ちでしょうか?過去の病気、昔の小説に出てくる病気…そう思われる方も多いかもしれません。実は結核は今なお私たちの身近に存在し、日本でも毎年約 1 万 5 千人が新たに診断される感染症です。特にお子さまの健康を守る立場にある保護者の皆さまには、この病気について正しく理解していただきたいと思います。
結核の治療:科学の力で克服する道のり
基本は「化学療法」—薬で細菌と戦う
結核の治療は、抗結核薬による「化学療法」が基本です。これは、特殊な薬で結核菌を退治する治療法です。
治療の流れは、おおよそ次のような「2 + 4」の 6 ヶ月間のプログラムになります:
最初の2ヶ月(集中治療期):
- 4 種類の薬を組み合わせて使用
- イソニアジド(INH)、リファンピシン(RFP)、ピラジナミド(PZA)、そして
- エタンブトールまたはストレプトマイシン
続く4ヶ月(維持期):
- 2~3種類の薬に減らして継続
- 主に INH と RFP を中心とした治療
これは、まるでチームでの作戦のようなもの。最初は「総攻撃」で菌の数を大幅に減らし、その後は「見張り部隊」で残った菌を完全に退治します。この治療を途中でやめてしまうと、薬が効きにくい「耐性菌」が生まれてしまうため、医師の指示通りに最後まで続けることがとても大切です。
DOTS(ドッツ)—世界標準の治療サポートシステム
WHO(世界保健機関)は「DOTS」という方法を推奨しています。これは「Directly Observed Treatment, Short-course(直接監視下短期化学療法)」の略で、患者さんが確実に薬を飲めるようサポートする仕組みです。服薬を確認することで、治療の中断を防ぎ、耐性菌の発生も防止できます。
外科治療—特別なケースのための選択肢
薬による治療が難しい場合、例えば慢性的な膿胸(胸の中に膿がたまる状態)、骨や関節の結核、多剤耐性結核などでは、外科手術が選択されることもあります。これは特殊なケースで、通常は薬物治療が基本となります。
結核の予防:BCG ワクチンの物語
BCG ワクチン—小さな英雄の誕生秘話
結核予防の要となるのが「BCG」というワクチンです。このワクチンには、100 年近い歴史があります。
1921 年、フランスのパスツール研究所でカルメットとゲランという二人の科学者が、13 年もの歳月をかけ、231 回もの実験を繰り返して開発しました。彼らは強い毒性を持つ牛の結核菌を、特殊な培地で何度も培養し、人間に安全に使えるように弱毒化することに成功したのです。
この「カルメット・ゲラン・バチルス(Bacillus Calmette-Guérin)」の頭文字をとって「BCG」と名付けられたワクチンは、日本には 1924 年に志賀潔博士によって持ち込まれました。現在、世界中の子どもたちがこのワクチンを接種しています。
BCG の効果—お子さまを守る力
BCG ワクチンは、特に小さなお子さまの重症結核(結核性髄膜炎や粟粒結核)の予防に非常に効果的です。これらは命に関わる深刻な病態ですので、予防できることは大きな意味があります。
ただし、成人の通常の肺結核に対しては予防効果は約 50%程度と考えられています。完全ではありませんが、それでも重要な防御線となります。
日本では 2003 年度から、乳幼児期に 1 回接種する方式となりました。以前は小・中学校入学時にも接種することがありましたが、現在は生後 1 歳までの接種が推奨されています。
もし結核と診断されたら:法律上の手続き
結核は感染症法で「2 類感染症」に分類されています。これは、社会的に重要度が高く、まん延防止のために特別な対応が必要な感染症という意味です。医師が結核と診断した場合、直ちに保健所への届出が義務付けられています。
また、学校保健安全法では「第 2 種の感染症」とされており、感染の恐れがなくなるまで登校・登園を停止する必要があります。同居家族や接触者についても、状況に応じて登校制限などの措置がとられることがあります。
保護者の皆さまへ:心配しすぎず、正しく恐れる
結核は正しい知識と適切な対応があれば、十分に予防・治療が可能な病気です。特に日本では、医療体制が整っていますので、早期発見・早期治療が可能です。
お子さまの健康のために大切なことは:
- 定期的な健康診断を受ける
- BCG ワクチン接種を適切な時期に受ける
- 長引く咳や発熱などの症状があれば早めに受診する
- バランスの良い食事と十分な睡眠で免疫力を維持する
- 不安なことがありましたら、いつでも当クリニックにご相談ください。