日本脳炎を知ろう
—蚊が運ぶ「夏の脳炎」の真実—
「日本脳炎」って何?
「日本脳炎」という名前は聞いたことがあるけれど、実際どんな病気なのか、詳しく知っている方は少ないかもしれません。
日本脳炎は、コガタアカイエカという小さな蚊が媒介する感染症です。この病気の原因となるのは「日本脳炎ウイルス」。このウイルスは 1935 年に日本で初めて発見されました。名前に「日本」とついていますが、実は東アジアから東南アジア、南アジアにかけて広く分布している病気なのです。
日本脳炎はどのように広がるの?
日本脳炎ウイルスは、人から人へは感染しません。感染の流れは少し複雑です:
- まず、蚊がウイルスを持った豚(主な増幅動物)を刺します
- 蚊の体内でウイルスが増殖します
- その蚊が人を刺すと、人に感染することがあります
私たち人間は、このウイルスにとっての「終着点」。人の血液中にはウイルスがほとんど存在せず、他の人にうつすことはありません。
日本脳炎の現状は?
かつて日本では、1966 年に 2,000 人以上の患者が報告されたピーク時がありました。しかし、ワクチン接種の普及により、現在では年間 10 人未満にまで減少しています。
ただし、油断は禁物。毎年夏になると日本でも日本脳炎ウイルスを持った蚊は発生しており、感染の可能性は完全になくなったわけではありません。特に最近では若い世代での感染例も報告されています。
どんな症状が出るの?
感染しても発症するのは 100〜1,000 人に 1 人程度と言われています。つまり、多くの人は感染しても症状が出ないまま終わります。
発症すると、潜伏期間(6〜16 日)の後に以下のような症状が現れることがあります:
- 高熱(38〜40°C以上) 強い頭痛
- 吐き気・嘔吐
- めまい
- お子さんの場合は腹痛や下痢を伴うことも
その後、症状が進行すると:
- 首の硬直
- 光に敏感になる
- 意識障害
- 筋肉の硬直
- ふるえや麻痺
- けいれん(特に小児に多い)
診断と治療は?
日本脳炎が疑われる場合、血液検査で抗体を調べることで診断します。
残念ながら現在のところ、日本脳炎に対する特効薬はありません。治療は主に対症療法(症状を和らげる治療)が中心となります。高熱やけいれんのコントロール、脳浮腫(脳の腫れ)の管理などが重要です。
特に注意すべきは、日本脳炎は症状が現れた時点ですでにウイルスが脳細胞を傷つけ始めているため、治療が難しいという点。ここが他の多くの感染症と異なる点です。このため、予防が何よりも重要な疾患なのです。
予防法は?
日本脳炎の予防には主に 2 つの方法があります:
1.蚊の対策
- 長袖・長ズボンを着用する
- 蚊の多い場所(特に夕方〜夜間の水田や池の近く)に行かない
- 虫除けスプレーを使用する
- 家の窓や玄関に防虫ネットを設置する
2.ワクチン接種
現在の日本では、定期予防接種として以下のスケジュールでワクチン接種が行われています:
- 第 I 期:3 歳頃に計 3 回(初年度に 2 回、1 年後に 1 回)
- 第 II 期:9〜12 歳に 1 回
- 第 III 期:14〜15 歳に 1 回
ワクチン接種の効果は実証されており、近年の調査では日本脳炎を発症した患者のほとんどがワクチン接種を受けていなかったことがわかっています。
まとめ
日本脳炎は、かつて恐れられた感染症ですが、ワクチン接種の普及により日本国内での発症数は大幅に減少しました。しかし、毎年夏になるとウイルスを持った蚊は発生しており、油断はできません。
特に海外旅行の際には注意が必要です。東南アジアや南アジアなどの流行地域へ長期滞在する予定がある方は、渡航前に予防接種について医師にご相談ください。
- 当クリックでは日本脳炎ワクチン接種を実施しております。ご質問や不安なことがありましたら、お気軽にスタッフにお尋ねください。
感染症法に基づく届出について
日本脳炎は 4 類感染症に指定されており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る義務があります。