麻疹(はしか)について
知っておきたいこと
はじめに
「麻疹(はしか)」という言葉を聞いて、どんなイメージをお持ちでしょうか?
「子どもの病気でしょ?」「もう日本にはないんじゃない?」と思われる方も多いかもしれません。しかし実は、麻疹は今でも注意が必要な感染症の一つです。
この記事では、麻疹とは何か、どのような症状が出るのか、そして何よりも大切な予防法について、わかりやすくお伝えします。
麻疹ってどんな病気?
麻疹は、麻疹ウイルスによって引き起こされる感染症です。このウイルス、とても感染力が強く、免疫を持っていない人が感染者と同じ空間にいるだけで感染することがあります。空気感染、飛沫感染、接触感染と、あらゆる経路で広がるのが特徴です。
よく「はしか」と呼ばれることもありますが、正式名称は「麻疹」です。英語では「Measles(ミーズルズ)」と呼ばれています。
麻疹の症状:時間の流れに沿って
麻疹に感染すると、約 10~12 日間の潜伏期間を経て発症します。症状は次のような段階で進行します。
前駆期(カタル期):2~4日間
- 38°C前後の発熱
- 強いせき、鼻水、のどの痛み
- 目の充血、まぶしさ、目やに
- 全身のだるさ
この時期、口の中の頬の内側に「コプリック斑」という白い小さな斑点が現れることがあります。これは麻疹の特徴的な症状で、診断の重要な手がかりになります。
発疹期:3~5日間
- 再び高熱(39.5°C以上)が出る
- 耳の後ろや首、額から赤い発疹が出始め、顔→体→手足へと広がる
- せきや鼻水などの症状はさらに強くなる
- 特有の「麻疹顔」と呼ばれる顔つきになる
発疹は最初は小さな赤い点ですが、次第に大きくなり、互いにつながって不規則な形になります。指で押すと一時的に色が薄くなるのが特徴です。
回復期
- 発疹が出てから3~4日後に熱が下がる
- 発疹は色素沈着を残してだんだん消えていく
- せきなどの症状も徐々に軽くなる
合併症がなければ、発症から7~10日程度で回復します。
怖いのは合併症
麻疹が恐ろしいのは、さまざまな合併症を引き起こす可能性があることです。主な合併症には次のようなものがあります。
肺炎
麻疹による最も一般的な死因の一つです。特に乳幼児では注意が必要です。ウイルス自体による肺炎と、細菌の二次感染による肺炎があります。
脳炎
約 1,000 人に 1 人の割合で発症します。発疹が出てから2~6日後に起こることが多く、意識障害や痙攣などの症状が現れます。約 25%の患者さんに後遺症が残り、約15%が命を落とすとされています。
中耳炎
麻疹患者の約 7%に見られる比較的多い合併症です。特に小さなお子さんでは、痛みを訴えられないことがあるので注意が必要です。
SSPE(亜急性硬化性全脳炎)
麻疹から回復した後、平均 7 年ほど経ってから発症する非常に重篤な合併症です。進行性の脳の病気で、残念ながら予後は極めて悪いとされています。特に 2 歳未満で麻疹にかかった場合にリスクが高いことがわかっています。
修飾麻疹:典型的でない麻疹
麻疹に対する免疫が不十分な場合(例えば、ワクチン接種をしたけれど免疫がしっかり付かなかった場合など)、感染しても症状が軽い「修飾麻疹」になることがあります。
- 微熱程度で済む
- 発熱期間が短い
- せきや鼻水などの症状が出ないことも
- 発疹が体の一部にだけ出る
修飾麻しんは症状が軽いため見逃されやすく、知らないうちに周囲に感染を広げてしまう可能性があります。
診断方法
麻疹の診断には、以下のような検査が行われます。
- ウイルスの遺伝子検査(PCR 検査)
- 血液検査(麻疹特異的 IgM 抗体、IgG 抗体の測定)
- ウイルス分離
日本では、麻疹が疑われる場合、原則としてこれらの検査を行うことになっています。
麻疹の予防:ワクチン接種が最も効果的
麻疹を予防する最も効果的な方法は、ワクチン接種です。日本では、1 歳と小学校入学前の年(年長児)の 2 回、麻疹・風しん混合(MR)ワクチンを接種することになっています。
2 回のワクチン接種で、95%以上の人が麻疹に対する免疫を獲得できるとされています。ワクチンによる副反応は、発熱や発疹などが稀に見られますが、通常は軽度で自然に治ります。
日本の麻疹対策の成果
日本では、2008 年から麻疹対策が強化され、2015 年 3 月に WHO(世界保健機関)から「麻疹排除状態」であると認定されました。これは、国内で継続的に麻疹が流行していない状態を意味します。
しかし、海外からの輸入例を発端とした集団発生は時々起きています。特に 2019年には 744 例と多くの報告がありました。2020 年以降は COVID-19 の影響で海外との行き来が減少したため、麻疹の報告数も大幅に減少しましたが、今後、海外との往来が活発になるにつれて再び増加する可能性があります。
まとめ:麻疹から身を守るために
麻疹は「過去の病気」ではなく、今なお注意が必要な感染症です。特に以下の点に気をつけましょう。
- ワクチン接種が最大の予防策:定期接種の機会を逃さず、2 回の接種を必ず受けましょう。
- 大人も注意が必要:子どもの頃にワクチンを受けていない、または 1 回しか受けていない成人も、必要に応じて接種を検討しましょう。
- 海外渡航時は特に注意:海外では麻疹が流行している国・地域があります。渡航前に自分の免疫状態を確認しましょう。
- 麻疹は重症化する可能性のある病気ですが、適切な予防と早期の対応で防ぐことができます。ご不明な点があれば、いつでも当クリニックにご相談ください。