破傷風
小さな傷口が招く大きな危険
土の中に潜む目に見えない敵から身を守るために知っておきたいこと
静かに忍び寄る脅威:破傷風とは
庭仕事で手を切った、公園で転んでちょっと擦り傷ができた…。日常のそんな小さな傷が、時に命に関わる重大な病気を引き起こすことをご存知でしょうか?
破傷風は、土壌や動物の糞便に広く存在する「破傷風菌」が傷口から体内に侵入することで発症する感染症です。この菌は特殊な「芽胞」という形で環境中に存在し、消毒薬や熱にも強い驚くべき生命力を持っています。
1968 年に予防接種が導入されて以来、日本での症例は大幅に減少しましたが、今でも年間約 100 例の報告があります。2011 年の東日本大震災の際にも 10 例ほどの発症が確認されており、決して過去の病気ではないのです。
なぜ破傷風はこわい??ー 小さな菌が起こす驚くべき症状
破傷風の恐ろしさは、菌そのものではなく、その菌が作り出す強力な「神経毒素」にあります。この毒素は末梢神経を通って中枢神経まで到達し、私たちの神経のブレーキ機能を壊してしまうのです。
その結果、筋肉は収縮し続け、自分の意思では力を抜くことができない状態になります。症状は通常、感染から 3 週間以内に現れ、次のように進行します:
症状の進行
1.第 1 期 :
「口が開けにくい」という開口障害が初期症状として現れます。首筋の張りや寝汗、歯ぎしりも見られます。
2.第2期 :
顔の筋肉が常にけいれんし、皮肉な笑みを浮かべているような特徴的な「破傷風顔貌」が現れます。
3.第3期 :
全身の筋肉に影響が広がり、頭と踵だけが地面につく「後弓反張」という姿勢になります。光や音などの刺激で全身が固まる発作も繰り返します。
4.第4期 :
症状が徐々に回復する時期。初期から第 3 期までの進行が早いほど、予後は不良とされています。
最も特徴的なのは「皮肉な笑み」と呼ばれる表情と、弓のように体が反り返る姿勢です。これらの症状が進行すると、呼吸困難や嚥下障害を引き起こし、時に命に関わることもあります。
破傷風から身を守るために
破傷風は一度発症すると治療が難しいため、予防が何よりも大切です。
1.予防接種を受ける
日本では乳幼児期に 4 種混合ワクチン(DPT-IPV)の中で破傷風の予防接種が行われます。ただし、効果は徐々に減弱するため、最後の接種から 10 年以上経過している場合は追加接種を検討する必要があります。
2.傷の適切なケア
- 傷ができたらすぐに流水でしっかり洗いましょう
- 土や泥で汚れた傷、深い傷、動物に噛まれた傷は特に注意が必要です
- 自分で処置できないような傷は迷わず医療機関を受診しましょう
3.リスクの高い活動には注意を
ガーデニングや農作業など土に触れる機会の多い方は特に注意が必要です。手袋を着用するなど、予防策を講じましょう。
もし破傷風を疑ったら
開口障害や筋肉のこわばりなど、破傷風を疑う症状があれば、すぐに医療機関を受診してください。破傷風の診断は主に症状から行われ、早期発見・早期治療が重要です。
治療では、抗破傷風人免疫グロブリンの投与や、症状を和らげるための薬物療法、必要に応じて呼吸管理などが行われます。静かで暗い環境で安静にすることも大切です。
「小さな傷でも侮らない」という姿勢が、この古くからある感染症から私たちを守る最大の武器です。特に予防接種歴が不確かな方や、最後の接種から長期間経過している方は、かかりつけ医に相談することをお勧めします。
- 当クリニックでは破傷風を含む予防接種の相談も承っております。小さな備えが、大きな安心につながります。