心不全を知ろう
高齢社会で増える"心臓の疲れ"

心臓が疲れると起こる「心不全」
あなたのハートは元気ですか?

「心不全」と聞くと難しい病気の話と思われるかもしれませんが、実はとても身近な病気なのです。

心不全って何?疲れた心臓からの SOS

心臓は、私たちの体の中で一番よく働く臓器です。生まれてから今この瞬間まで、休むことなく全身に血液を送り続けています。例えるなら、体という家の中でせっせと水(血液)を運ぶ水道ポンプのようなものです。

ところが、このポンプも長年使っていると、だんだん疲れてきます。これが「心不全」の始まりです。心不全とは、心臓のポンプ機能が弱くなって、体のすみずみまで十分な血液を送れなくなった状態のことです。

「心臓が悪くなった」というと、心筋梗塞や心臓病を思い浮かべる方が多いですが、心不全はそれらを含む様々な原因で起こる「心臓からの SOS サイン」と考えると分かりやすいでしょう。

急性と慢性 ー 突然の嵐か、じわじわと来る長雨か

心不全には、大きく分けて「急性心不全」と「慢性心不全」の 2 種類があります。

急性心不全は、突然の大雨で川が氾濫するように、心臓の働きが急に悪くなる状態です。数時間から数日の間に症状が現れ、息苦しさや胸の痛み、動悸などの症状が強く出ます。これは緊急事態で、すぐに病院へ行く必要があります。

一方、慢性心不全は、じわじわと長い期間をかけて進行します。長雨が続いて、少しずつ地盤が緩んでいくようなイメージです。「最近階段を上ると息切れがする」「少し歩くと疲れやすい」など、日常生活の中で少しずつ変化が現れます。

実は、これらは別々の病気ではありません。慢性心不全の方が風邪をひいたり、お薬を飲み忘れたりすると、急に状態が悪くなって急性心不全になることもあります。また、急性心不全から回復した後は、慢性心不全の状態になることが多いのです。

日本の「心不全パンデミック」 ― なぜ今、心不全が増えているの?

日本は超高齢社会。65 歳以上の方が人口の約 3 割を占めています。厚生労働省の調査によると、心不全の患者さんは年々増加し続けており、2030 年には 130 万人に達すると予測されています。

これはなぜでしょうか?

  1. 高齢化の進展 ― 心臓も年を取ると少しずつ弱くなります
  2. 生活習慣病の増加 ― 高血圧や糖尿病などが心臓に負担をかけます
  3. 医療の進歩 ― 心筋梗塞などの治療が進歩し、命は助かっても心臓に後遺症が残ることがあります

このような背景から、心不全は「静かな流行病(パンデミック)」とも呼ばれています。

こんな症状があったら要注意!

急性心不全の主な症状

  • 激しい息苦しさ(特に夜、横になると息ができない感じ)
  • 咳が止まらない
  • 胸の痛み
  • 激しい動悸
  • 顔や手足が青白くなる
  • 手足が冷たくなる
  • 足のむくみ

重症の場合は意識がもうろうとすることも。これらの症状が突然現れたら、すぐに救急車を呼びましょう!

慢性心不全の主な症状

  • 階段や坂道で息切れがする
  • 以前よりも疲れやすい
  • 手足が冷える
  • 動悸がする
  • 咳が出る(特に夜間)
  • 足がむくむ(靴がきつくなる、靴下の跡が残りやすい)

これらの症状が徐々に現れたら、早めに医師に相談しましょう。

心不全の原因 - 心臓が弱くなるわけ

心不全の原因は大きく分けて 2 つあります。

1.心臓自体に問題がある場合

  • 虚血性心疾患:心臓の筋肉に血液を送る冠動脈という血管が詰まったり、狭くなったりする病気です。狭心症や心筋梗塞がこれに当たります。これらは「心臓の栄養不足」と考えるとわかりやすいですね。
  • 心筋症:心臓の筋肉自体に異常が起きる病気です。筋肉が厚くなりすぎたり、薄くなったりして、うまく収縮できなくなります。
  • 心臓弁膜症:心臓の中には 4 つの弁があり、血液の逆流を防いでいます。これらの弁が狭くなったり、うまく閉まらなくなったりする病気です。特に高齢者に多い「大動脈弁狭窄症」は要注意です。

2.心臓以外に問題がある場合

  • 高血圧:血圧が高いと、心臓は強い力で血液を送り出さなければならず、心臓に大きな負担がかかります。長年の高血圧は心臓を疲れさせます。
  • 糖尿病:血糖値が高い状態が続くと、全身の血管を傷つけ、心臓の血管も例外ではありません。
  • 腎臓病:腎臓と心臓は密接に関わっています。腎臓の機能が低下すると、体内の水分バランスが崩れ、心臓に負担がかかります。

心不全を予防するために ― 今日からできること

心不全の多くは生活習慣と深く関わっています。以下のことを心がけましょう。

1.塩分を控えめに

ラーメンや漬物、加工食品には塩分がたっぷり。塩分の摂りすぎは高血圧の原因となり、心臓に負担をかけます。1日の塩分摂取量は6g 未満を目指しましょう。

2.適度な運動を

「運動は心臓に悪い」と思っていませんか?それは間違いです。適度な運動は心臓を強くします。ウォーキングなど、息が少し弾む程度の運動を毎日 30 分程度行いましょう。

3.定期的な健康チェック

血圧、血糖値、コレステロール値などをチェックする健康診断を定期的に受けましょう。早期発見が大切です。

4.お薬は指示通りに

高血圧や糖尿病のお薬は「調子がいいから」と自己判断で中止せず、医師の指示通りに服用しましょう。

5.禁煙・節酒

タバコは血管を傷つけ、お酒の飲みすぎは血圧を上げます。どちらも心臓に負担をかけます。

まとめ ― 心臓をいたわって長生きしよう

心不全は怖い病気ですが、早期発見と適切な治療、そして日々の生活習慣の改善で、進行を遅らせることができます。心臓は一度疲れると完全に元に戻すことは難しいため、「予防」がとても大切です。

今日から心臓にやさしい生活を始めて、いつまでも元気に過ごしましょう!

  • 何か心配なことがあれば、いつでも当クリニックにご相談ください。