お腹の中のミクロな戦い
~ウイルス性胃腸炎との上手な付き合い方~
はじめに
「ゲーゲー」「ビチャビチャ」...おや?この不快な音が夜中に聞こえてきたら、その正体はきっとウイルス性胃腸炎の始まりかもしれません。特に冬のシーズン、私たちのクリニックでは毎日のようにこの「お腹の風邪」と戦うお子さまたちをお見かけします。
今回は、保護者の皆さまが知っておくべきウイルス性胃腸炎の知識と、お子さまを守るための具体的な対策をご紹介します。
ウイルス性胃腸炎の主な犯人たち
ロタウイルス:乳幼児の胃腸の大敵
- 特徴: 2歳くらいまでの乳幼児に多く見られます
- 季節: 主に冬から春先
- 症状の特徴:「白色下痢便」(おしりから出るものが水のように白っぽい)
- 感染力: とても強い!おむつ交換時は特に注意が必要です
ノロウイルス:家族総出の胃腸トラブルメーカー
- 特徴: 幼児から大人まで幅広い年齢層に流行
- 季節: 主に冬季
- 症状の特徴:突然の激しい嘔吐から始まり、その後下痢へ)
- 感染力: 家族内での二次感染率が非常に高いです
ウイルス性胃腸炎の「旅のしおり」(症状の進行)
第一章:嘔吐の嵐(1〜2日目)
お子さまが突然「気持ち悪い」と言い出し、その後「ゲーゲー」の嵐が始まります。この時期は何を飲んでも吐いてしまうことが多く、保護者の方々にとって最も心配な時期です。
第二章:下痢への移行(2〜3日目)
嘔吐が落ち着いてきたと思ったら、今度は「ジャー」という水のような下痢が始まります。おむつが頻繁に重くなり、お着替えの回数が増えるでしょう。
第三章:回復への道(3〜7日目)
少しずつ症状が和らぎ、お子さまの元気も戻ってきます。この時期でも軟便が続くことがありますが、徐々に通常の排便パターンに戻ります。
脱水との戦い:水分補給の極意
なぜ水分補給が大切なの?
子どもの体は約70%が水分。嘔吐や下痢で失われる水分量は大人の想像以上です。脱水症状は子どもにとって非常に危険で、重症化すると入院が必要になることも。
脱水のサイン
- おしっこの回数が減る(6時間以上出ない)
- 涙が出ない
- 口の中やくちびるが乾燥している
- 元気がなく、ぐったりしている
- 皮膚の弾力性が低下(つまんでも戻りが遅い)
ベストな水分補給法
1.経口補水液(OS-1など) : 医学的に最も推奨される水分補給法です
- 電解質(塩分など)と糖分のバランスが絶妙
- 少量ずつ(スポイトやスプーンで5〜10ml)を頻回に
- 冷やすと飲みやすくなることも
2.自家製経口補水液の作り方(緊急時)
- 水1リットル + 塩3g(小さじ半分) + 砂糖 20g(大さじ2)
※医療用の経口補水液の方が望ましいです
3.水分補給のコツ
- 「ちょっとずつ、こまめに」が鉄則
- 最初の1時間は10〜15分おきに少量ずつ
お子さまが眠っている場合でも、定期的に起こして水分を与えましょう
こんな時は要注意!受診のタイミング
- 嘔吐が止まらず、水分すらも受け付けない状態が6時間以上続く
- おしっこが8時間以上出ていない
- 38℃以上の高熱が続く
- 血液や粘液が混じった便が出る
- 激しい腹痛で体を丸めている
- 異常な眠気や意識がはっきりしない
ウイルス性胃腸炎を家族に広げないために
- 手洗いの徹底:石鹸で30秒以上、特に指の間と爪の下まで
- 消毒の習慣: ドアノブやトイレのレバーなど共用部分のアルコール消毒
- タオルの分離:患者さんのタオルは必ず分けましょう
- トイレ掃除: 嘔吐物や便が飛び散った場所は次亜塩素酸ナトリウム(家庭用漂白剤を薄めたもの)で消毒
回復期の食事:胃腸に優しいメニュー
- 最初の一日: 水分のみ(経口補水液がベスト)
- 回復初期: おかゆ、うどん、バナナなど消化の良いもの
- 徐々に: 白身魚の煮付け、じゃがいも、豆腐など
- 控えるべきもの:脂っこいもの、乳製品、甘いジュース、繊維質の多い野菜や果物
最後に:ワンポイントアドバイス
- お子さまの胃腸炎は、保護者の方々の忍耐と愛情が最大の治療薬です
- 脱水さえ防げれば、多くの場合は自然に回復します
- 予防接種(特にロタウイルス)を検討されることをお勧めします
- 焦らず、ゆっくり回復を見守りましょう
- 当クリニックでは、お子さまの胃腸炎に関するご相談を随時承っております。心配なことがあれば、お気軽にご来院ください。